フロイトが提唱した“力動的精神医学”という考え方をご存じでしょうか?
これは、人間の心の中で無意識的な力(動因:人の行動や感情を引き起こす心の内側のエネルギーや欲求)がどのように作用して精神的な症状や行動を生み出すかを理解しようとするものです。
簡単に言うと、
「心の中の気持ちや欲求がぶつかり合って、人の行動や気分に影響するという考え方」です。
認知症と力動的精神医学の関連
1. 行動の背後にある「意味」や「感情」を理解する
認知症の方が示す混乱や不安、攻撃的な行動などには、表面的には説明できない感情的な背景がある場合があります。
→ 力動的アプローチでは、それを「抑圧された感情の表現」や「無意識の不安の発露(はつろ:内面にある感情や欲求が、外にあらわれること)」と理解します。
2. 退行(Regression)という視点
認知症が進行すると、まるで子どもへ返っていくように感じる方もいるかと思います。
その過程で、不安を強く感じたりすることがあります。これは心理学的に「退行」とも解釈され、※防衛機制の一つです。
→ これは力動的精神医学でも重要な概念です。
※防衛機制とは、自分を守るため、自分を保つために、無意識に働く心の守りの仕組みです。
3.過去の記憶と感情の残存
認知症の方は最近の記憶を失っても、幼少期や若い頃の記憶・感情は比較的よく残っています。これは「※心的構造(心の中にある3つのはたらきが、気持ちや行動を決めている仕組み)」や「無意識の働き(自分では気づかない心の奥の力が、考え方や行動に影響を与えること)」を考えると、理解を深める手がかりとなる重要な現象です。
→ たとえば、「母親を探す」という行動は、幼少期の愛着不安の表れかもしれません。
※心的構造
イド:「やりたい!ほしい!今すぐ!」という本能の声
自我:「ちょっと待って、どうやったらうまくできるかな?」と考える自分(現実的な大人)
超自我:「それはダメ!ちゃんとルールを守らなきゃ」という心の先生(道徳・ルール)
「この3つが心の中で話し合いながら、どう行動するか決めている」というイメージです。
┌────────────┐
│ 超自我 │←道徳・良心(親の声、社会のルール)
└────────────┘
▲
│
┌────────────┐
│ 自我 │←現実と折り合いをつけてバランスを取る
└────────────┘
▲
│
┌────────────┐
│ イド │←本能・欲求(快楽を求める力)
└────────────┘
4. 介護者の心理的負担にも応用できる
力動的視点は、ご家族や介護者自身の心の動き(葛藤・罪悪感・怒り)を理解し、セルフケアやメンタルサポートにも役立ちます。
実践における活かし方
- 行動そのものを問題とせず、「なぜこの行動が起きたのか?」という視点で関わる
- 感情の背景をくみ取るような共感的な態度を大切にする
- 介護者の感情(怒りや無力感)を「ダメなこと」と否定せず、心の自然な反応として受け止める
まとめ
自分自身の無意識に気づいていくこと。そして、無意識にある感情を認めることが大切です。
退行していく、防衛機制は、自分自身を守るものです。それが奪われたり、なくなったりすると心のバランスは崩れます。退行に限らず、その方がどんな※防衛機制をしているかよく知ることも大切なことです。
心の中にある感情や記憶を知るには、心的構造や無意識の働きにも注目することが大切です。
それが、より深い理解につながり、ケアの質を高めることにもつながります。
介護されている自身も、自分の感情に蓋をせずに、まずは気付いて、そして、少しずつ認めることができると心が軽くなるのではないかと思います。
※防衛機制
防衛機制 | 簡単な説明 |
---|---|
否認 | つらい現実を「そんなはずない」と思い込む |
抑圧 | イヤな気持ちや記憶を無意識に押し込む |
投影 | 自分の感情を他人のものだと思い込む |
退行 | 子どものような態度に戻って安心しようとする |
合理化 | 都合よく理由をつけて気持ちを守る |
認知症セミナーのお知らせ
前回(令和7年3月)ご好評いただいたテーマを、さらにブラッシュアップして再度開催いたします。
テーマ:「心穏やかに認知症介護をするコツ」
内容
☆答えを急がない勇気を持つ姿勢でいることが、自分の非も、相手の非も許せるようになる!
☆認知症介護は、ご本人だけのケアではない!自分満たすことから始めましょう!
☆自分の価値観を守ることが最良のケアになる!心の底のポジティブな認知症観に気付きましょう! 参加費:無料です
こんな方におすすめ
- 本当は優しく接したいのに、イライラしてしまう
- 心が疲れている
- 抱えている課題の本質をしっかり捉えて介護したい
- 認知症介護で大切なことを知りたい
開催日程(選択制)
※開催日を追加いたしました
- 4月16日(水)
20:00~21:30 - 4月17日(木)
20:00~21:30 - 4月23日(水)
20:00~21:30 - 4月24日(木)
20:00~21:30
ご都合が合わない方は、個別調整も可能です。
申し込みフォームの「お問い合わせ欄」に、第1~第3希望日をご記入ください(第1希望だけでもOKです)。
皆さまの心が少しでも軽くなりますよう、全力でお手伝いさせていただきます。
お申し込みはこちら
https://forms.gle/MSCyYw2TaPEv7u7B9
個別相談のご案内
認知症介護に関するお悩みを、1対1でじっくりお話ししてみませんか?
- 認知症介護で悩んでいる方
- ご家族やご自身が認知症と診断され、不安や戸惑いがある方
- どこに相談していいか分からない方
ピアカウンセリングも行っています
私自身、メンタル疾患を経験しています。
同じような悩みを持つ者同士で語り合う「ピアカウンセリング」を通して、
安心できる居場所をご提供いたします。
お申し込みはこちら
フォームにてご希望の日程などをご記入ください個別相談お申し込みフォーム
よろしくお願いいたします。