MCI(軽度認知障害)とは、「程度の軽い、何らかの認知機能に問題が現れた状態」かつ、「日常生活には大きな問題がない状態」です。
「程度の軽い、何らかの認知機能に問題が現れた状態」
認知症ほど、認知機能は低下していない。しかし、加齢に伴う認知機能低下ではなく、健康な状態と認知症の間の状態です。
※MCIの診断基準
①物忘れ(本人の訴え、もしくは家族、介護者による指摘)がある
②年齢の影響だけで説明できない記憶障害がある
③身体活動、日常生活、社会活動は保たれている
⑤認知症の診断基準は満たさない
※MCIの診断基準:アメリカのピーターセン医師(メイヨークリニック)が1999年に提唱した判断基準
日常生活に問題があるかどうか
日常生活の自立性: MCIの特徴は、認知機能に軽度の低下が見られるものの、基本的な日常生活(例:食事、着替え、トイレの使用など)には支障をきたしていないことです。MCIでは、これらの「基本的な日常生活動作」(ADL: Activities of Daily Living)はほぼ問題なく行えるとされています。
複雑な日常生活活動: 一方で、少し複雑な日常生活活動(IADL: Instrumental Activities of Daily Living)においては、軽度の困難が見られることがあります。IADL(一般的に「手段的日常生活動作」といいます)には、次のような項目が含まれます。
・交通機関の利用や車の運転
・電話をかける、受ける
・買い物をする
・家事や料理を行う
・お金の管理(請求書の支払い、銀行取引)
MCIには4種類ある
健忘性MCI(単一領域型): 記憶障害が主な問題で、他の認知機能は保たれている。
健忘性MCI(多領域型): 記憶障害に加えて、他の認知機能にも影響が出る。
非健忘性MCI(単一領域型): 記憶以外の特定の認知機能が影響を受ける。
非健忘性MCI(多領域型): 記憶以外にも、複数の認知機能が影響を受ける。
※健忘とは
「健忘」とは、物事を覚えておく能力が低下し、記憶が抜け落ちたり、思い出せなくなったりする状態のことを指します。たとえば、「何を食べたかをすぐに忘れてしまう」や「人の名前や約束を思い出せない」といったことが健忘の典型的な例です。
「MCIかもしれない」と初期に気付く生活面での変化
・日用品の買い物
・金銭管理
・服薬の管理
MCIから認知症に進行する場合には、IADL、ADLが緩やかに低下していきます。
IADL(手段的日常生活動作)の評価尺度
①電話の使い方
②洗濯
③買い物
④移動、外出
⑤食事の支度
⑥服薬管理
⑦家事
⑧金銭の管理
各項目でできていれば1点の8点満点。MCIが強く疑われるのは、5~6点以下
しかし、評価は個人の生活背景や状況、年齢、他の健康状態を考慮した上で行われるため、1点減少しただけで直ちにMCIと診断されるわけではありません。
MCIの4種類における認知症へのコンバージョン率
コンバージョン:ある状態や形から別の状態や形に変わること
健忘性MCI(単一領域型):
- 特徴: 記憶機能が主に低下している状態で、他の認知機能は保たれている。
- コンバージョン率: 最もアルツハイマー型認知症(AD)に移行しやすいとされています。年間のコンバージョン率は10-15%程度と言われています。
健忘性MCI(多領域型):
- 特徴: 記憶機能の低下に加え、他の認知機能にも障害が見られる。
- コンバージョン率: 健忘性MCI(単一領域型)よりもさらに高いコンバージョン率を持ち、20-25%程度が年間でアルツハイマー型認知症(AD)に移行するとされています。
非健忘性MCI(単一領域型):
- 特徴: 記憶以外の特定の認知機能(例:言語能力や視空間認知など)に影響があるが、記憶は比較的保たれている。
- コンバージョン率: アルツハイマー型認知症よりも、レビー小体型認知症や脳血管性認知症、前頭側頭型認知症への移行リスクが高いとされています。年間のコンバージョン率は5-10%程度です。
非健忘性MCI(多領域型):
・特徴: 記憶以外にも複数の認知機能が低下している。
・コンバージョン率: レビー小体型認知症や脳血管性認知症に移行する可能性が高く、年間のコンバージョン率は10-15%程度です。
各認知症タイプへの移行に関する特徴とコンバージョン率
アルツハイマー型認知症(AD):
- 移行の特徴: 健忘性MCIが主に移行します。特に、記憶障害が顕著で、他の認知機能が比較的保たれている場合、アルツハイマー型認知症への移行が多いです。典型的には、健忘性MCIが早期の前駆症状と考えられます。※前駆症状:病気が本格的に始まる前に現れる初期の兆候
- コンバージョン率: 健忘性MCIからアルツハイマー型認知症に移行する年間率は10-15%ですが、健忘性MCI(多領域型)では20-25%に達します。
レビー小体型認知症(DLB):
- 移行の特徴: 非健忘性MCI(特に視覚・空間認知の低下を伴う場合)がレビー小体型認知症に移行しやすいとされています。レビー小体型認知症は、視覚幻覚やパーキンソン症状などの特徴を持つため、認知機能の低下に加え、これらの症状(視覚幻覚やパーキンソン症状)が現れることが多いです。
- コンバージョン率: 非健忘性MCIからレビー小体型認知症への移行率は、年間で10-12%程度とされています。
前頭側頭型認知症(FTD):
- 移行の特徴: 非健忘性MCIで、特に行動の変化や言語障害を伴う場合、前頭側頭型認知症に移行しやすいです。記憶障害はあまり見られず、むしろ社会的な行動や判断力の低下が特徴的です。
- コンバージョン率: 前頭側頭型認知症への移行率は、MCI全体の中では比較的低く、年間で5-10%程度です。
脳血管性認知症(VaD):
・移行の特徴: 非健忘性MCI、特に多領域型が脳血管性認知症に移行しやすいです。脳血管の問題による一過性の認知障害がMCIとして現れ、その後、認知症に進行する場合があります。
・コンバージョン率: 脳血管性認知症への移行率は、年間で7-10%程度とされています。
総合的なポイント
・健忘性MCI(特に多領域型)はアルツハイマー型認知症に移行しやすい。
・非健忘性MCIはレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症、脳血管性認知症に移行しやすい傾向がある。
・MCI全体の年間の認知症への移行率は10-15%程度とされているが、具体的なタイプや症状によって異なる。
最後に
MCI(軽度認知障害)は可逆的な症状です。つまり、健康な状態に戻ることができる可能性があります。
認知症は非可逆的なので、元の健康な状態に戻ることはできません。
早期に気付くことが大切です。
次回は、MCIから健康な状態に戻る方法をご紹介します。