認知症になっても、今を生きる意味は変わらない。

投稿者: | 2025年4月13日

「実存的(じつぞんてき)」とは、簡単に言うと、

「生きることそのものに深く関わること」や「人間が自分自身として生きることに関わる在り方」

を指します。

哲学の言葉で、特に「実存主義」という考え方と関係しています。
実存主義では、「人間は生まれながらに意味を持っているわけではなく、自分で生き方を選び、意味を作り出していく存在だ」と考えます。
つまり、社会や誰かが決めたものではなく、自分自身がどう生きるかを真剣に問うことが「実存的」です。

たとえば、

  • 仕事をこなすだけの日々ではなく、「自分はなぜこの仕事をするのか」と深く考える
  • 何かを選ぶときに、周囲に流されず、「自分はどう生きたいか」で決める

こうした態度が「実存的」と言えます。

さらに言うと、「実存的」とは単なる知識や理屈ではなく、不安、迷い、苦しみを抱えながらも、本気で自分の人生に向き合うことを含んでいます。

「自分自身の生き方や存在に真剣に向き合うこと」

が「実存的」と言えます。

認知症と実存的という考え方の関連性

認知症になり、記憶障害や、見当識障害(時間→場所→人の順に理解できなくなっていく)などの症状が表れてきます。

しかし、その苦悩があるからこそ、認知症の方はより「実存的」であると思います

・自分とはどんな存在か。
・自分の存在意義は何なのか。
・これからの自分の生きる意味は何か。

このように、実存的な危機に直面していると思います。
その危機に支援者が考えなければならないことは、

・アイデンティティを保つこと。
・尊厳を守ること。
・役割をもつこと。
・共にあること。
・つながりがあること。

などです。
パーソンセンタードケアの5つの心理的ニーズを満たすことと同じではないかとも思います。

パーソンセンタードケアの5つの心理的ニーズ

自分らしさ(Identity): 自分が自分であることを感じること。

結びつき(Attachment): 他者とのつながりや絆を感じること。

携わること(Occupation): 何かに関与し、役割を持つこと。

共にあること(Being with): 社会や周囲の人々との一体感を感じること。

くつろぎ(Comfort): 安心感やリラックスを得ること。

これらのニーズが満たされることで、認知症の方々がより良い状態で過ごせるとされています。

「自分らしくいたい」「大切にされたい」「役割を持って生きたい」という存在そのものへの願いは、症状が進んでもずっと残ります。
だから、症状だけを見るのではなく、その人の存在そのもの(実存)に寄り添うケアが必要です。

認知症と心理学者・哲学者の考え方との関係

〇実存心理学者のヴィクトール・フランクルは、ナチスの強制収容所での体験をもとに、こう言いました。
「人間は、どんな状況に置かれても、自分の態度を選ぶ自由がある。」

これは認知症にも深く当てはまります。

認知症になると、記憶も判断力も失われていきます。
でも、

  • 目の前の人に安心したり
  • やさしい言葉に笑顔を見せたり
  • 大切にされると、ほっとしたり

どんなに症状が進んでも、「今ここ」で感じ取る力と、「応える力」は残っています
つまり、認知症になった人も、「周囲の関わりに対してどう応えるか」という気持ちを持ち続けています。
だからこそ、私たち支援者や家族がその人の尊厳を守る関わりをすることが、とても大切になります。

〇実存主義の父と呼ばれるキルケゴールは、こう言いました。

「人間は、不安を感じることで、本当の自分に気づく。」

認知症の方も、自分の変化にどこかで気づいています。

  • できないことが増えた不安
  • 周りが知らない言葉で話しているように感じる孤独
  • 何となく、自分が「自分でいられなくなっていく」怖さ

こうした不安に向き合う力が、人間らしさそのものだとキルケゴールは言います。

〇哲学者マルティン・ハイデガーは、

「人間とは、“死”を意識することで、より真剣に生きる存在である」
と考えました。

認知症は、本来「死」や「人生の終わり」を意味するものではありません。
しかし、社会に根強く存在する誤った認知症観によって、本人や家族が、まるで人生が終わったかのように感じさせられてしまうことがあります。

そのような偏見がある中でも、いまこの瞬間を生きることを大切にすることに変わりありません。
たとえ明日、その記憶が薄れてしまったとしても、
今日、共に笑ったこと、安心できたことは、確かにその人が生きた証です。

ハイデガー的に言えば、

認知症ケアは、「この瞬間を本気で生きる」ことを支える営み
と言えるかもしれません。

これらをまとめると…

フランクル → どんな状況でも態度を選ぶ自由がある → 認知症でも、応える力を持ち続けている

キルケゴール → 不安に向き合うことで人は自分に気づく → 認知症の不安に寄り添うことが大切

ハイデガー → 死を意識するからこそ、いまを本気で生きる → 今日この瞬間を支えるケアが大切

つまり、認知症ケアは、「症状に対応すること」ではなく、「その人の存在そのもの(実存)に寄り添うこと」だと言えるのではないかと思います。

たとえ認知症であっても、一人の人間としての苦悩を持っています。
そして、その苦悩は実は、心を守っているのではないかと思います。
自分の苦悩に気付いて、自分と向き合うことで、実存的に「自分」という存在意義を見出すことができるのではないかと思います。
ただ、「自分と向き合う」ということは、とても大変でエネルギーを要します。さらには、認知機能を働かせる必要もあります。
そういった意味で、認知症の方は実存的な障がいをもっているのではないかと考えます。
だからこそ、ケアが必要だと思います。
ただ、私たちは「ケア・ギバー(与える人)」ではなく、「ケア・シェアラー(分かち合う人)」として、共に歩む必要があると思います。
それが、実存的に寄り添うということではないでしょうか。

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