認知症になるとすべてのことを記憶できなくなるわけではありません。
最後まで残る記憶。それは、「感情記憶」です。
認知症は、大脳皮質の機能が障害されて、記憶を保てなくなります。
しかし、様々な記憶が一度にできなくなるわけではありません。
まず、失われる記憶は、学んで身につけた「意味記憶」です。(例:言葉の意味や知識)
次に失われるのが出来事の関する「エピソード記憶」です。(例:昨日何を食べたか、旅行の思い出など)
比較的残るのが、料理ができるなどの「手続き記憶」です。(例:料理や楽器の演奏などの習慣的な動作)
そして、最後まで残るのが「感情記憶」です。
この「感情記憶」に働きかけていくことで、認知症の方との「絆」をつくることができます。
ケアと声掛けに矛盾が生じていないか
自分がいくらポジティブな声掛けをしていても、ケアしている行動がネガティブなものになっていないか、注意が必要です。自尊心を傷つけるようなケアをしていないか。身体を「つかむ」ようなケアをしていないか。意識することが必要です。
また、視覚・聴覚・触覚のうち、一つだけにしか働きかけていないと、メッセージが届かないことがあります。2つ以上の知覚に同時に働きかけて、ポジティブなメッセージを伝えることが大切です。
そうすると、ケアを受ける方が、心地よく感じることができます。心も穏やかになり、筋肉もリラックスできます。ポジティブな感情が記憶されます。
ケアが終わったら、終わりじゃない?
私たちは、友人と食事に行って、食べ終わったらすぐにお別れすることは、あまりないと思います。
それと一緒で、ケアが終わったら、すぐにその方とお別れしないことの方が自然といえます。
「お風呂は気持ち良かったですか?」「とても楽しい時間を一緒に過ごせて嬉しかったです」
とケアを振り返ります。
このことによって、そのケアに対して、ポジティブな感情が記憶されます。
再開の約束が大切
私たちが、楽しい時間を過ごした後に、「また会いたいな」と思うことが多いのではないかと思います。
それと一緒で、楽しかったとケアを振り返り、最後に「また会いましょうね」と約束をする。
これは「自分に優しくしてくれた人が、また会いに来てくれる」というポジティブな感情として残ります。
また、「約束をしてくれた」という感覚は、「人との絆の中に自分がいる」という実感につながるという意味でも、とても重要です。
私たちが、普段の生活にあるポジティブな人間関係を築いていくことを、普段行っているケアと比べてみてください。私たちが普段当たり前にしている行動が、ケアになると抜け落ちてしまったりします。
私たちは、「ケアする人」と「ケアされる人」という隔たりを、いつの間にか作ってしまっているのかもしれません。自然体で、「人と人」として、ポジティブな人間関係を築いていこう、「絆」をつくろうとすることが、ポジティブな感情記憶として残り、お互いが喜びを分かち合う関係になれるのだと思います。
それが「ケア・シェアラー(ケアを分かち合う人」)になるということだと思います。